
たあるプロデューサーがつくったものが大失敗したのは、彼女の踊りの魅力を封じ込んだんですよ。だから、やっぱりいろいろ観客のニーズをよく見て、そのタレントを使ってやらなくてはいけない。
もっと具体的な失敗例−失敗とまでは言い切れなかったんですけれども、沢田研二さんで、斎藤憐という「上海バンスキング」をつくった人と組んで「異邦人」というのをやりました。沢田研二さんは、絶頂期のタイガース時代のファン動員は今はもう無理にしても、かなり動員力のあるスターで、実力はもちろんある人なんですけれども、残念ながら、やっぱり沢田研二のファンには「異邦人」というのは変化球過ぎたというようなことがあります。そういうときに、相手役の女優に切符の売れる人が入っていれば興行は成功するのかもわかりませんが、沢田さんの悪口を言うわけではないですけれども、非常に女優の好みが強かったために、制作の1人としては非常に難しい仕事でした。
○前田
ごらんになった方もあろうかと思いますけれども、「異邦人」というのは、戯曲が斎藤憐さんという方の本ですし、どっちかというとストレートプレイの感じですよね。
○山下
プレイ・ウィズ・ミュージックというんですかね。佐野磧(せき)という、左翼演劇に走って、第2次世界大戦前にロシアヘ行っていて、最終的にはメキシコで客死する実在の人物を描いたものなんですけれどもね。
○前田
そういう人物に沢田研二がシリアスに取り組んで、なかなかお芝居としては見ごたえもあってよかったと思うんですけれども、ふわっとミュージカルを見たいというお客様にはちょっと向かなかったという面があったのでしょうか。
○山下
これは何も日本だけの現象ではなくて、僕の乏しい外国の事例からいきますと、4年前ですか、ロンドンで「嘆きの天使」というマレーネ・ディートリッヒのベルリン時代の名作映画を主題にしたプレイ・ウィズ・ミュージックがあったんですよ。これは非常におもしろいものだったんですけれども、やっぱりちょっとイギリス人の観客、大衆の好みに合わなかったのかロングランはしなかった。だから、何も日本だけの問題ではないと思うんですけれどもね。
○前田
さっきから話が出ている、例えば安寿ミラさんの話なんですけれども、今お話しの「レディ・イン・ザ・ダーク」を僕も見ました。。ずるいんですよ、この人(山下さん)の考えることは。宝塚の女優さん、それも男役トップスターは間違いなくお客を持っています。その人が、宝塚をやめる、女優はやめた、という宣言をして、それが出るということになると、1回あきらめていた宝塚のお客さんがみんなドラマシティヘ来るわけで
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